ばいばい、津崎。
今は後悔ばかりを数えても仕方がない。
津崎はまだ、手の届く場所にいる。
もしかしたら、運命を変えられるかもしれない。ううん、私は変えたくて、過去の世界へときた。
ここで未来の出来事を話すことは簡単だ。でも結末だけを知ったところで津崎の本当の理由にたどり着かない限り、それはなんの救いにもならない。
まずは私たちの他人のような距離感をなくすことから。
10年前の私も少しずつ、一歩ずつ津崎との関係を築いてきたから。
「自宅謹慎なんて、暇でしょ?」
私は他愛ない会話を振る。
少し不自然だったのか津崎は再び私のことを凝視する。
そういえば、こうして津崎は〝謎の間〟をつくることが多々あった。
答える言葉を考えてるのかもしれないし、あまり自分の領域に踏み込まれることがイヤなのかもしれないし、なんにせよ沈黙に私は目を泳がせるだけ。
「暇だけど学校に行くよりはラクだよ」
やっと返ってきた返事はシンプルだった。
時間が進むにつれて月明かりも色濃くなって、黒色だった海がまるで黄金色のように輝いている。
そのおかげで津崎の姿がさっきよりもはっきりと見えるようになった。
スッと高い鼻筋や黒目が大きな瞳。Tシャツの上からでも分かる筋肉質な身体と、血管が浮き出ている男らしい手。
少年のままで止まっているはずの津崎がとても大人びているように感じて、会えなかった10年ぶんを焼き付けるように、つい見すぎてしまう。