ばいばい、津崎。
「へへ。実は彼氏がおだんごヘアー好きなんだよね」
「……彼氏?」
私は必死で記憶の糸を手繰り寄せていた。
美喜が恋愛体質だってことは知っている。だから歴代の彼氏にも何人か会ったことがあるし、付き合う前にこの人どうかな、なんて紹介されたこともある。
これでも一応、美喜の恋愛遍歴を見てきたつもりだけど、今の彼氏って……どの人だろう。
「うん!T市に住んでる大学生。写メ見る?」
美喜はそう言って携帯の画面を見せてくれた。
……ああ、この人か。
たしか知り合いの紹介で出逢って、週末にはフェリーに乗って美喜が会いにいってた。
T市までは往復60分で料金は1380円。午前に出航して、午後に帰ってくる週末のデート。
当初から大変だな、と心配していたけど読みどおり、その彼とはあまり長続きはせずに別れてしまった。
「今度一緒に遊園地に行くんだー!」なんて、ここで嬉しそうにのろけている美喜には口が裂けても言えないけれど。
そんな話をしている内にチャイムが鳴って、朝のホームルームがはじまった。
ぞろぞろと、クラスメイトたちが着席する中で、今日ももちろん津崎は学校に来ていない。
今頃は家で大人しく寝ているんだろうけど〝いない〟ということに敏感になってしまう私は無意識に津崎の席ばかりを気にしてしまう。