ばいばい、津崎。
*
そのあと私は新宿から電車に乗って埼玉県の草加に向かった。東京とは違って穏やかな駅前は時間の流れがとてもゆっくりしているように感じた。
「皐月ー!!」
と、そこへベビーカーを押しながら手を振る美貴が歩いてきた。
「久しぶりだね。美貴」
「うん。一年ぶりぐらいだよね!」
美貴は現在、専業主婦をしていて一児の母。ツイッターやインスタグラムで元気そうにしていることは知っているけれど、忙しさを理由にして私が会うことを先伸ばしにしてしまっていた。
「ぐっすり寝てるね」
日差し避けで覆われているベビーカーを覗くと、可愛い顔をして眠る羽菜(はな)がいた。一年前はまだ生後半年で、髪の毛もぽわぽわとしていて小さかったのに、今はずいぶんと肉付きも良くて女の子らしい顔つきになっている。
「いつもお昼前に寝るから丁度良かったよ。起きてるとゆっくり話もできないからさ」
ここから美貴の自宅までは徒歩で10分もかからない距離。焦げ茶色のアパートに着いて、美貴は羽菜を起こさないそっとリビングのお昼寝マットの上に寝かせた。