朝はココアを、夜にはミルクティーを
話しながら部屋の前にたどり着いて、私はバッグから鍵を取り出す。
その鍵を、鍵穴にさそうとするけれどなかなか入らない。
何度かやってるうちに、鍵がコロンとコンクリートの地面に落ちた。
その鍵を先に拾い上げた亘理さんが「俺がやりますよ」と声をかけてくれたけど、反応できなかった。
「……白石さん?」
「…………すみません、見ないで」
「白石さん」
顔をのぞき込まれて、急いでそらしたけどもう見られてしまった。
「どうして泣いてるんですか?」
驚きよりも何よりも心配そうな表情をしている亘理さんに、私はふるふると首を振って見せる。
なんて返したらいいか、言葉を選んでいるうちに涙が次から次へと止まらなくて、ひたすらコートの袖で拭った。
この生活が、ずっと続くわけはない。それは分かっていたし、いつか亘理さんが部屋を出ていくのもちゃんと分かっていたつもりだった。
だけど、いざそれが現実になろうとしているのを感じたら、勝手に涙が溢れてしまったのだ。
ぽんと頭に大きな手が乗せられて、撫でられる。
亘理さんはそれ以上なにも聞いてこなかった。
鍵を開けてくれた彼は玄関に入らずに
「コンビニに行ってきます。ご飯買ってきますから、待っててください」
と、言い残していなくなった。
「─────寂しいって言ったら、困らせちゃうかな……」
誰もいなくなった玄関に、本音をつぶやいた。