朝はココアを、夜にはミルクティーを
11 サンタさんとトナカイさんの別れ
クリスマス期間の三日間は、文字通り激務だった。
初日は祝日だけどそこまで混雑しないだろうという予想を超えて、かなりのお客様が訪れた。
おかげで、今いるスタッフだけでは対応しきれないということで残りの二日間は本社からヘルプで社員さんが三人送り込まれてきたほどだ。
「トナカイさーん!こっち向いてよー!」
「待って待って、まだ写真撮ってないってば!」
「サンタさんは?どこ行ったの?」
子どもたちのパワフルな声が店内に響き渡る。
笑い声や走り回る足音で賑やかなのは結構なことだが、私の体力は三日目についに限界を迎えていた。
すでにサンタ役の社員さんは店舗裏へ避難してしまった。必ず一緒に行動するようにって言われてたのに!酷い!
着ぐるみの中でゼェゼェ言っていると、タイミングよく大熊さんが「はいはーい!」と手を叩いて子どもたちを制した。
「まだまだ写真撮ったり遊んだりしたい子もいると思うけど、今からトナカイさんはサンタさんを探しに行くからねぇ。ちょっと抜けますよぉ〜」
ぐいっと手を引かれ、私は残りの力を振り絞って子どもたちに手を振る。
幼稚園くらいの子たちは素直に手を振り返してくれていたが、小学校高学年くらいの男の子は意地悪そうな顔で「あれきっと中の人が疲れてんだよ」と言っているのが聞こえた。
うん、そう、君は正解。
「く、苦しい……」
「瑠璃ちゃん、しっかり!」
レジだって大行列なのはさっきちらりと見えたし、店内もカート同士がなかなかすれ違えないくらい混んでいる。
いったいどうしたというのか。コマチがここまで混んでいるのなんて、たぶん見たことがない。
「ごめんなぁ、瑠璃ちゃん。俺はもう……限界だ……」
サンタクロースの衣装を身にまとったまま、青果担当の社員さんはイスにしなだれかかっている。
白いもじゃもじゃのつけヒゲがとれかけているし、帽子も脱げかけている。
大熊さんは私たち二人にペットボトルのお茶を差し出したあと、またレジ業務に戻るからとそそくさといなくなってしまった。