朝はココアを、夜にはミルクティーを
12 どうして、そんなに優しいのですか?
亘理さんが話していた通り、三日後に彼は出て行った。
元々、荷物がものすごく少なかったから出ていくのも簡単で、忘れ物なんて部屋のどこを探しても見つからなかった。
部屋の合鍵と一緒に渡してきたのは、カツヒコヤスダのマカロンの詰め合わせ。
ずっと前に私が並んで買ったと話したことを覚えていたらしく、わざわざ出向いて買ってきてくれたみたいだ。
前に食べた時は、甘酸っぱくてホロホロと口の中でとけていくマカロンに感動して、次はどの味にしようと一人でウキウキしていたのだが、今回はどこか物悲しくて、部屋に一人きりというのも受け入れられなくて、キャラメル味のマカロンを一つだけ食べて冷蔵庫へしまい込んだ。
脚立にのぼり、壁掛け時計の隣に貼り付けていた「同居するにあたっての注意事項」の紙を剥がした。
そして、実感する。
もう亘理さんはこの部屋に戻ってこないんだなって。
「最近元気ないわねぇ、瑠璃ちゃん」
同じ遅番のシフトで入った大熊さんに、更衣室でそんな風に声をかけられた。
馴染みの制服に袖を通しながら、そうですか?と聞き返す。
「いつもと同じですよ!クリスマスの疲れがまだ取れないのかもしれません」
「亘理さんと何かあったの?」
「えー、何もないですよ」
…………何もなさすぎて、悲しいだけ。
クリスマス以降、コマチは平日でも賑わう時間帯が増えた。
閑散としている時もあることはあるが、前のように人っ子一人いないということはまったくない。
年末年始もそこそこに忙しく働いて、お店の売上は例年に比べるとだいぶ回復しつつあった。
今はようやくお正月ムードも落ち着きを見せ始めて、次のイベントはどうしようかと従業員で相談しているところだ。