朝はココアを、夜にはミルクティーを
「そういえば、この間から前の店長がやたらと出入りしてるわね。瑠璃ちゃん、気づいてた?」
「そうなんですか?気づきませんでした」
大熊さんの話は、本当に知らなかった。
彼女によると、前の店長は週に二回ほどのペースでうちの店舗へやって来て、亘理さんと何やら事務所で話し込んでいるらしいのだ。
たまたま私が見かけなかっただけなのだろうが、何か裏で動き始めているのかなという印象はある。
前の店長はお人好しで、ほんわか和やかな雰囲気を作るのが得意な人だった。彼が採用した従業員はほとんど残っていて、亘理さんはよく「前の店長さんがいい人たちを採用してくれていて良かったです」と話していた。
優しくて争いを好まない人だったからこそ、このコマチが衰退してしまったというのは否めないが。
「本社勤務になってたはずだよね、前の店長って」
「そうですね、確かそう話してました」
「もしかして壮大なプロジェクトみたいなのが進んでるのかしらねー?」
正社員にしか分からないだろうけど、と大熊さんがつけ加える。
そう、私みたいな契約社員には分からないような。
大熊さんと更衣室を出たところで、ちょうど通りかかった亘理さんが私を見つけて駆け寄ってきた。
「おはようございます」
「おはようございます。白石さん、出勤早々すみませんが、ちょっとよろしいですか?」
「はい」
私がうなずくと、大熊さんは「またあとでね」と手を振って店舗へ出ていく。
廊下に残った私は、先を行く亘理さんの背中を追いかける。
追いかけながら、色々なことを思い巡らせる。
新居の住み心地はどうかな、通勤時間が長くなって大変じゃないかな、家具は揃ったのかな、なんて。
彼女でもないのに、余計なお世話か。