朝はココアを、夜にはミルクティーを
「明日から恵方巻きの予約が始まるのですが、それとは別に、並行してバレンタインのチョコの発注もかけたくて。白石さんに見立てていただきたいんです」
事務所に入るなり分厚い冊子を渡されて、説明を受ける。
冊子の中身はピンからキリまでのお値段のチョコレートや焼き菓子などのギフトが載っていた。
パラパラと冊子の中身を読んでいると、亘理さんがさらに続ける。
「過去のデータを元にどのくらいの種類をどのくらい発注するか決めていただいてもいいですか?あと、ディスプレイ案も」
もう、こういった要求には慣れてきた。
家のパソコンに仕事用のファイルがいくつも出来てしまうくらい、幾度となくやってきた。
「分かりました。あ、バレンタイン向けの料理教室も企画しましょうか?一ヶ月くらいしか猶予がないので、たぶん回数はあまり出来ませんが」
「そうですね。企画していただけるとありがたいです」
「じゃあ明日までに企画書を書いてきます。発注に関しては、いったんメーカーと種類別に分析しますので、データを亘理さんに見てもらってから決めてもいいですか?」
「はい、それで大丈夫です」
すんなりと会話を重ね、過去のデータが入っているというUSBを彼から受け取り、事務所を出ようとドアノブに手をかけた。
「白石さん」
呼び止められて、振り向く。
「あの、今夜なにか予定はありますか?食事でもどうでしょうか」
そう言った亘理さんの表情は、いつもと同じ。
こっちがものすごくドキドキしていることなんてきっと知らないだろう。
彼は前に言っていた「お礼にご馳走させてください」を実行しているに過ぎない。
「……はい、行きます」
断る理由もないし、断れるわけがない。
好きな人と二人でいられるのは、幸せ以外ないのだから。
「俺は中番で仕事が終わりますから、事務所で待ってますね」
「分かりました。声かけます」
事務所から退室してパタパタと小走りで店舗へ出た私は、自分の業務であるレジへと向かう。
先にレジに立っていた大熊さんが、私を見てニコニコと笑った。
「いいことあったのね?」
「…………はい」
喜びが顔に出てしまっていたことを、恥ずかしながらも認める。
同居していなくても、仕事に来れば会えるのだから悲観することはない。
そう自分に言い聞かせた。