朝はココアを、夜にはミルクティーを
「……白石さん」
間もなく閉店時間。
一時間前まではあんなに彼との食事が楽しみでならなかったのに、今は気が重い。
私はおそるおそる「はい」と彼の方を見た。
亘理さんは、とても心配そうな顔で私を見つめていた。
「大丈夫ですか?」
この人はいつも、私の想像をはるかに超える。
「─────大丈夫、じゃないです」
おさえても、震える声はどうにもならない。
「今日は食事はやめませんか?そんな気分になれないでしょう?」
「どうして、亘理さんは……」
「はい?」
「どうして、そんなに優しいのですか?」
うつむいて、でもちゃんと聞こえるように声を出して尋ねる。
すると、彼のハッキリとした返事が聞こえた。
「傷つけたくないからです、白石さんを」
私は亘理さんに傷つけられてなんかいないのに、と思ったけれど、そこで気がついた。
たぶん彼は、何もかも悟ったのだと。
恋愛に踏み切れない私を、汲み取ったに違いない。
この状況で「大丈夫ですか」と声をかけられる人なんて、きっとそういない。そんな配慮ができる人は、彼以外、きっと。
「食事は、行きます。今日一日、ずっと楽しみにしてたので」
顔を上げてそう言うと、亘理さんは一瞬また心配そうな目をしたけれど、すぐにふわりと優しい笑みを浮かべた。