朝はココアを、夜にはミルクティーを
「当然、道路の線も見えないですし、周りの景色も見えないですし、目の前にいたはずのトラックのテールランプも見えませんでした。生きた心地がしなかったです」
「だ、大丈夫だったんですか?高速は降りられたんですか?」
何も見えないのにどうやって運転したんだろう?
首をかしげる私に、彼はふっと思い出し笑いをするみたいに肩をすくめた。
「ハザードランプを点灯させてスピードを徐々に緩めて、ゆっくり路肩に寄って停車しました。よく見たら他の車もみんなそうやって停まっていて、ホワイトアウトがおさまるのを待っていましたね。あれは貴重な経験でした」
「なんだか、亘理さんの学生の頃って想像つかないんですけど……」
やたらと落ち着いた大学生を想像してしまう。
「普通の大学生でしたよ」
「普通って?髪の毛染めたりしました?パーマとかは?ちょっとぶっ飛んだファッションをしたり?」
「…………どんなこと考えてるんですか?」
思わず吹き出した私は、顔を隠すように手で覆うと「内緒です」と言葉を濁した。
きっと、今とそんなに変わらないだろう。なんとなくそれは分かる。彼は周りに流されるような人ではないからだ。
─────数時間前に、涼がお店に来た時はどうしようかと思った。
世界で一番会いたくない人が、コマチに来るなんて考えてもいなかったのだ。
テンションも下がったし、あんな人と付き合っていたことが亘理さんに知られたのもショックだったけれど、それ以上に彼との食事がなくなってしまうのが嫌で、強行でこうして来てしまった。
外はこんなに吹雪いているのに。
少し申し訳ない思いに駆られながらも、二人きりでいられるからやっぱり来てよかったなんて。
私って神経が図太いのかも。
亘理さんは優しいから、きっともう涼のことは聞いてはこないだろう。
全部分かっただろう。私が前の職場を辞めた理由も、どうしてそれを彼に隠そうとしていたのかも。
まっさらな気持ちで素直に好きだと伝えられたら、どんなに楽だろう。
残り少ないチキン南蛮を食べながら、彼との食事の時間ももうすぐ終わってしまうことに寂しさを感じていた。