朝はココアを、夜にはミルクティーを
「コンロは使えて良かったです。ミルクティーが飲めるとは思っていませんでした」
「悠長に作ってる場合じゃないですよね……」
「いいんです、リクエストしたのは俺です」
アロマキャンドルに緩やかに照らされて、亘理さんが微笑んだ。
非現実的で、楽しんでる時でもないはずなのに、胸が弾んでドキドキした。
ソファーに二人で並んで座って、前みたいにたくさん話をする。
それは、私にとって幸せのかたちだ。
飲み終わったマグカップに気づいた亘理さんが、自分の空のカップと一緒に手を差し出す。
「片づけてきますよ」
「あっ、ありがとうございます」
何の気なしに渡したら、手が触れ合って思わず彼の顔を見つめた。一瞬だけ触れた彼の手は、とても暖かかった。
「冷たいですね、白石さんの手」
少し表情を曇らせた亘理さんが、自分のぶんのホッカイロを私に押しつける。
「毛布かなんかで身体を暖めた方がいいですよ」
彼の言葉を聞いて、私はすぐに立ち上がって寝室から毛布を引っ張り出した。ずるずるとリビングに持ち込んで、ソファーに引き上げる。
「二人で、入りませんか?」
あまり深く考えずに口に出した言葉は、かなり大胆なものだということにあとから気がつく。
しまった!と彼を見上げると、亘理さんは思いっきり顔を背けていた。
「す、すみません!厚かましいことを言ってしまいました!」
胃も身も縮こまって、ソファーの上で土下座するくらいの気持ちで頭を下げたら、持っていた毛布がふわりと持ち上げられて驚く。
「違います、そういうことではないんです」
薄暗くてよく見えない彼の顔は、背けられたままなのでさらに見えない。
否定はしてくれたけれど、顔が全然こちらを向いてくれない。
「白石さん、分かってます?この状況。男としての理性を試されてるみたいで、けっこう俺はしんどいです」
「─────すみません」
私の顔が、真っ赤に染め上がる。
お互いに顔を背けて、なんとも言えない空気感が漂った。