朝はココアを、夜にはミルクティーを
しばらく無言が続いたけれど、やがて身体の上に毛布がかけられた。彼がやってくれたらしい。
胸のあたりで手繰るように毛布を引き寄せて、チラリと亘理さんをのぞき見る。
彼は片足をソファーに上げて頬杖をつき、少しだけ眠そうな顔をしていた。
「……亘理さん」
私が呼びかけると、その眠そうな顔がしっかりとした目になってこちらを向く。
「はい」
「むかし昔、あるところに、大学を卒業したばかりの女の子がいました」
「……なんですか、急に?」
突然話し出した私が語る昔話に、彼はおかしそうに笑った。
「その子は初めて社会人として働き始めた職場で、一人の男性と出会いました。女の子は彼に恋をし、彼もまた好きだと言ってくれました。すぐに二人のお付き合いが始まりました。その間、たくさん旅行もしたし、美味しいものも食べに行きました。………………結婚の話も出ていて、女の子はすっかりその気になっていました」
亘理さんの表情が、少しずつ変わる。
私の話に耳を傾けるように、身体ごとこちらを向いた。
「付き合い出して二年後のことです。女の子は、付き合っていると思っていた彼が、結婚をすることを知りました。相手は、女の子が信頼していた先輩でした。二人は、女の子が幸せボケしている姿を見て、きっと笑っていたんだと思います」
するすると亘理さんの手が、私の手に重なる。
「そのうち、会社に妙な噂が流れるようになりました。女の子が二人の仲を邪魔していた、と。その噂のせいで、女の子は居場所がなくなってしまいました」
重ねられた手が、ぎゅっと握られる。私もそれを握り返す。
「どこでどう間違ったのか、女の子は分かりませんでした。ただ好きな人を好きだっただけなのに。好きな人は、一瞬でもう二度と会いたくない人になってしまいました。……もう、二度と、会いたくないって……」
強い力で手を引かれて、次の瞬間、亘理さんの腕の中に包まれていた。
強く強く、苦しくなるくらい抱きしめられて、涙が止まらなくなった。
「もう、話さなくていいよ。つらいことなんか、もう話さないで」
亘理さんの優しい声が聞こえて、胸が詰まった。
彼の胸の中は、思っていたよりももっと暖かくて、そして素直になれる場所だった。
だから、思う存分泣いた。
そんな私を、彼はずっと強く抱きしめていてくれた。