朝はココアを、夜にはミルクティーを
その日はお子さんの休校の関係で四人ほど欠勤したスタッフがいた。
そのおかげで私ともう一人がシフトを変更して通し勤務になり、亘理さんも同様に通しに変更になった。
道が悪路になったために客足はあまり良くはなかったが、思ってたほど来ないわけでもなく、休んだスタッフが多いぶん忙しさは感じていた。
そんな中、とても懐かしい人がお店にやってきたのだった。
「瑠璃ちゃん!」
明るく元気なその声に驚いてキョロキョロしていると、見覚えのある顔が足音を立てて走り寄ってきた。
えぇ!と声を上げて私もすぐに笑顔になり、仕事中であることを忘れて飛び跳ねる。
「浜谷さーん!お久しぶりです!」
「ほんと久しぶりねぇ!元気だった?」
経営不振のためシフトを削られてしまい、コマチを辞めてブラマへ職場を変えた浜谷さん。
彼女に会うのは、じつに数ヶ月ぶりだった。
仲の良い大熊さんは彼女と何度か会っていたみたいだけど、辞めてからコマチに来たのは初めてじゃないだろうか。
馴染みのある人が顔を出してくれた嬉しさは格別だ。
「大熊さんには色々聞いてましたよ!浜谷さんのこと」
「あら、そう?私もね、熊ちゃんに聞いてるわよ?瑠璃ちゃんの近況」
「近況?」
「えぇ、好きな人がいるとかなんとか」
「きゃーーーー!」
思いがけない話をされて、全力で浜谷さんの口を塞ぐ。
彼女は面白そうにフガフガ言ったあと、ぺろりと舌を出した。
「ごめん、つい」
「つい、じゃないですよ!」
……大熊さんのおしゃべり!
「今日はどうしたんですか?こんな雪の日に買い物ですか?」
不思議に思って尋ねると、それまで歯切れのよかった浜谷さんがどこか答えにくそうに言い詰まった。
「えぇっと、ちょっと……事情があって」
「え?事情ですか?」
「うん。新しい店長さんって今いる?会わせてほしいのよ」
「亘理さんならたぶん事務所か、それか店舗に出てることもあるので……。探してきます。待っててもらえますか?」
たしか、亘理さんと浜谷さんは面識はないはずだ。
前の店長がいた時に辞めてしまったから、会うタイミングがなかったように記憶している。
待ってるわね、と浜谷さんはうなずいてくれた。