朝はココアを、夜にはミルクティーを
「瑠璃ちゃんは、彼のことどう思う?店長って感じしなくない?」
「それは……まあ、そうですね」
「ほらー。威厳も何も感じないし、パリッとしてないのよねー。身長はあるけどイケメンでもないし」
大熊さんの本音が最後の一言に集約されている気がして、私は苦笑いを返す。前評判が「イケメンでハイスペックで仕事ができる人」だったのだから、そう思うのも仕方ない。
決してイケメンではない亘理さんは、本当に特徴も何もない普通の人だからだ。
「瑠璃ちゃんも、あれじゃあときめかないわよねぇ。狙うどころかストライクゾーンにも入らないでしょ?」
「ここで彼氏は探してませんよ〜。あ、それと私は顔よりも中身重視でいきたいので……」
二人ですっかり話に夢中になっていると突然後ろから「白石さん」と声をかけられて、大熊さんと私はほぼ同時にビクッと身体を震わせた。
ゆっくり振り返ると、今さっきの私たちの会話を聞いていたのかいないのか、なんとなく小首をかしげたような亘理さんがこちらを見下ろしている。ちょっと気まずそうな顔で。
あらすみませんねぇ、と大熊さんは得意の煙に巻く作戦で鼻歌を歌いながら元のレジへと戻って行った。誤魔化し方がうまいのか下手なのかは微妙なところだ。
「白石さん、いまお時間いいですか。お客様もあまりいらっしゃらないし、レジは大熊さんにお任せしても大丈夫だと思いますので」
「あ、はい」
亘理さんからの申し出を受けて、私は大熊さんに会釈して水色のエプロンを脱いで丸めながら彼の背中を追いかける。
彼はお店から従業員用通路に入り、薄暗い廊下を少し進んで事務所へと私を招き入れた。
節電と書かれた張り紙のすぐ下にあるスイッチで室内灯をつけた彼は、あまり広いとは言えない六畳の部屋の片隅に積み重ねられたパイプ椅子のひとつを私に差し出す。
「どうぞ、座ってください」
今ひとつ目的が分からないまま椅子に腰かけると、彼もひとつ置かれた机と組になっている椅子に座り、そして置かれているパソコンの方を向きながら尋ねてきた。
「白石さんの目から見て、うちの店はどう思いますか?」
「え?私の目から?」
ぽかんとして聞き返すと、彼はいたって普通のトーンで、はいとうなずいた。