朝はココアを、夜にはミルクティーを


まだみんながテレビを見ている中で、そっと立ち上がった亘理さんが控えめに声をかけた。

「少しだけお時間よろしいでしょうか?」

その場にいる全員の目が彼に向けられたところで、彼は言葉を選びながら慎重に話し出す。

「えっとですね、こういった報道を受けて、みなさんがおっしゃっている通り、おそらくブラマに通っていたお客様がコマチに流れてくるとは思います。思います……が、来てもらって買い物をしてもらって、でもそれで終わりでは困ります」

え?と数人が聞き返すと、亘理さんは苦笑いを浮かべて続けた。

「一度きりの来店だけではだめだということです。こういった小売店はあくまでリピーターで成り立っています。また来たいと思わせることが大切なんです。ですから、一時的にブラマからコマチで買い物をしてもらうという感覚ではなく、試しにコマチへ来たらとても良かったから、これからはコマチで買い続けたいと思っていただくことが重要です」


彼の話を聞きながら、私は感心していた。
どうしても目の前のことばかり気にかけてしまって、将来のことにまで気が回らない。
私もまた、ブラマの失脚でしばらく売上はいいだろうなという気持ちでしかなかった。

その「売上がいい」状態を伸ばしていくことまでは考えが及んでいなかったのだ。


「新規のお客様に常連になっていただくためにも、コマチで働くみなさんのこの空気感を、より一層大切にしていきたいです。スタッフ間の仲の良さは俺も本当に驚いています。アットホームな暖かくて安らげる場所を、お客様にも感じ取ってもらえればこっちのものです」

亘理さんの言葉って、どうしていつもこんなに優しいのだろうと不思議に思う。
前に立って話している彼を見つめるみんなの目は、すごく嬉しそうで誇らしげだった。

そうだ。うちのお店のいいところを、お客様にも知ってもらわなきゃ。

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