朝はココアを、夜にはミルクティーを


「今、色々みなさんから意見をもらっています。売上向上のために必要な改善点や問題点などを具体的に把握しておきたいので」

「私……契約社員ですよ?」

「正社員とか契約社員とかパートとか、関係あります?」

「ありますよ!立場が全然違うじゃないですか。社員さんが決めてくださったことに従うだけです、私たち契約社員は」

「……そうですか。でも出来れば、従業員全員から店のことを聞きたいんです。よかったら参考までに教えてもらえると助かります」


亘理さんは、前の店長とはえらく違う。
なんというか、他人行儀で人情味はあまり感じられない。淡々と、余計なことは省いて話をするタイプ。

別に愛想が良くないとかじゃないし、普通に笑ったりもしているのだが、とびきり明るいとかそういうのはない。

「若くてやる気に満ち溢れた優秀な男」という情報の出どころは前の店長だったから、私たちが不安にならないように作り話をしただけなのだと悟った。
例の「若くてイケメンでハイスペック」っていう方の噂に関しては、いったいどこから来たのだろうか。


「どう思いますか、白石さん」

「どうって……」

今度は亘理さんは身体ごとこちらを向き、私をじっと見つめてきた。
やる気に満ち溢れてはいないが、お店を良くしようと思っているのは分かる。

一応、思ったことは伝えておいた方がいいのかな。

「なんていうか、活気がないですよね……」

「活気ですか」

開いたパソコンのキーボードをカタカタと鳴らして、私の言葉を打ち込んでいるらしい。亘理さんは、続けてくださいと目配せをしてきた。

「前はもっとこう、いらっしゃいませひとつにしても元気があったと思うんです。でも今は、店舗に出てる従業員が少ないのもあってか声も揃わないし、みんなボソボソ挨拶してる感じで……。お客様にしても、若いお客様が来ないんですよね。だから子供の声が聞こえなくて余計に寂れて感じてしまいます。それから……、あ、言ってもいいんでしょうか」

「はい、もちろん」

「私もつい思ってしまうんですけど、どうせお客様はブラマに行っちゃうし、って。商品を並べていても、本社から特売の連絡が来ても、何をしていても、これって意味あるのかなって……」

「……なるほど」


亘理さんはふと考えるように文字を打つ手を止めて、口元に手を当てた。

さすがに思ったことをズバズバ言いすぎたかな、と思ってしまう。ブラマという名前は出さない方が良かっただろうか?

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