朝はココアを、夜にはミルクティーを
中番で仕事を終えた私は、休憩室で待っているのも気が引けたので従業員用の駐車場に停めてある自分の車の中にいた。
暖房をつけて、音楽を小さめにかけてハンドルに両手をかけてもたれかかる。
「白石さんのことが、好きです」
そう言ってくれた数時間前を思い出して、一人で浸っていた。
予感していなかったわけじゃない。
お互いに気持ちがあるのは、なんとなく分かってはいた。
ただ、私が恋愛に踏み出せないことも、その理由も、亘理さんは理解してくれていたので、急いでいなかったというだけのこと。
いざこういう展開になると、面白いくらいに緊張するんだなとフワフワした感覚の中にいた。
ハンドルの上部に額をつけて、ぎゅっと目をつぶってこれまでの彼とのことを思い出す。
数ヶ月同居したからといって、好きになるなんて思っていなかった人。
彼のおかげでコマチの経営は立て直され、だいぶ軌道に乗ったと思う。ブラマの不祥事によってさらに売上は伸びているが、それをどう活かしていくかは従業員である私たちの力にかかっている。
彼が来た日から、私も、私の周りの人たちも、コマチは変わった。
コンコン、と窓ガラスを指で叩く音が聞こえてハンドルから顔を離す。
運転席をのぞき込むようにして、亘理さんが屈んで微笑んでいた。
いつの間にかコマチの営業時間は終了して、従業員も帰っていたらしい。
最後に亘理さんが出てきたようで、駐車場には私と亘理さんの車しか残っていなかった。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です。……どうしましょうか、俺の車に乗りますか?」
車を降りたけれど、刺すような極寒の外の空気に触れて身が縮こまる。
「良かったら、狭いですけど私の車で。ずっと暖房をつけていたので、暖まってますから」
私がそう言うと、亘理さんは「ありがとうございます」助手席に乗り込んできた。