朝はココアを、夜にはミルクティーを
暗い車内で、明かりらしい明かりはフロントに位置するデジタルメーターと、オーディオの明かりくらい。
それでもお互いの表情を映し出すには十分な光だった。
私と亘理さんは静かに視線を重ねて、しばらくのあいだ声を出さなかった。
「白石さん」
「はい」
穏やかな低い声は、エンジン音より暖房の音よりなにより、はっきり聞こえた。
「俺はあなたのことが好きです。お付き合いしていただけませんか?」
私の答えは、ひとつしかない。
「はい。私も……大好きです」
ずっと言えなかったその言葉が唇からつむぎ出された瞬間、なぜか泣きそうになった。
「また好きな人ができるなんて思いもしませんでした。恋愛する勇気もなかったので……」
亘理さんとの距離が近づきそうになるたびに怖くなっていたけれど、彼がいることで頑張れるし、彼の存在がないと不安になる。それは、プライベートでも仕事でもずっと同じ。
絶対的にそばにいてほしい人なんだと、彼のためなら、なんだってできる気がした。
運転席と助手席の間にある手すりの上で、お互いの手を重ね合わせる。
その手がしっかりと握り合わされた時、すんなりと素直になれた。
「本当は、ずっとうちにいてほしかったんです。行かないでって言いたかったんです。でも、それを言ったらどう思われるんだろうって怖くて」
「……俺は居候の分際でしたから、出ていきたくないとは言えませんでした。家もない男に好きだと言われたって、信用性に欠けませんか?」
「亘理さんほど頭の中が仕事だらけな人を、信用しないなんてありえないですよ!」
「いえいえ、頭の中は半分ほどは白石さんのことを考えてましたよ」
「……え!?」
「冗談です」
動揺しまくってうろたえていると、その反応が面白かったのか亘理さんはとても楽しそうに肩を震わせて笑っていた。
この状況でそんな冗談を言える彼の余裕が、自分との違いを明確に示されたみたいで少し悔しい。
笑うところじゃないですとむくれて言い返したら、亘理さんの両手が伸びてきて私の身体を包み込んだ。
それはあの停電の日とはまったく違う抱き寄せ方で、すごく丁寧に、優しく髪を撫でてくれた。
まるで耳元で好きですと囁かれているような、くすぐったい感覚。
抱きながらベンチシートの間に下げられている手すりを戻してフラットにした彼は、文字通りなんの障害もない状態で私を温める。
暖房よりもホッカイロよりも、彼の温もりが一番心地いい。