朝はココアを、夜にはミルクティーを


寝巻き姿のままでキッチンでココアを作っていると、以前一緒に住んでいた時のように亘理さんはソファーに座ってテレビを見始めた。
まるで、彼が出ていったのなんて夢だったみたいに。

「新しい住まいはどうですか?家具はもう揃ったんですか?」

鍋で温めた牛乳にココアを入れると、真っ白だった世界に柔らかなブラウンが混ざりこんで甘い香りがした。
この匂いをかぐと、今日も頑張ろうと思える。

新居のことをほとんど知らない私が彼に尋ねると、彼はすぐに「いえ」と首を振った。

「まだほとんど揃っていないです。家電一式とベッドくらいですかね、揃えたのは。食事もダンボールの上で食べてます」

「ええっ!本当に?」

「はい、買わなくちゃと思いながらも忙しくて」


亘理さんはふいに立ち上がり、私のそばまでやってきた。
ココアはまもなく出来上がりだ。
食器棚からマグカップを二つ出して、ココアを注ぎ込む。

「……白石さんに、お話したいことが二点ほどあるのですが」

「はい?」

あまり深く考えずに、ひとつのカップを彼に手渡す。
受け取りながら、亘理さんは私をじっと見つめた。


「─────じつは、今月いっぱいで俺は本社に戻ることになりました」

「……え!?ほ、本社に!?」

驚いたというか、ただただショックだったという方が正しいかもしれない。

近づいた思ったら離れていく、恋愛はその繰り返しだというけれど、せっかく付き合えることになったのに即刻離されるなんて、いくらなんでも残酷すぎる。

彼がいなくなったあとのコマチは、どうなっていくのだろうか。


「どうしてですか?亘理さんが来てからまだ四ヶ月ですよ!早すぎます!」

前の店長が頻繁に出入りしていたのは、これがあったからなのか。おそらく亘理さんと入れ替わりで戻ってくるに違いない。

悲しさと寂しさが押し寄せてきて、思わず彼に抗議したけれど。
亘理さんは冷静な表情で微笑むばかりだった。

「売上の落ち込みが深刻な店舗が他にもあるようで、そちらに行くように指示を受けました。先月本社から話があり、受けることにしました。うちの店舗はもう大丈夫でしょう。みなさん本当に頼もしいですし、なにより白石さんがいる」

「だから、私なんて……」

「ただの契約社員、ですか?」

「………………そうです」

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