朝はココアを、夜にはミルクティーを
噛み締めるように答えると、亘理さんは私の顔をのぞき込んだ。
どちらも湯気のたつココアを飲むことなく話をしている。
「白石さん。コマチの正社員登用試験を受けてみませんか?」
彼が言い放った言葉は、私のくすぶっていた気持ちを吹き飛ばすほどの威力があった。
なんとも言えない顔をしていたと思う、この時の私は。
少しは考えたこともあった、正社員への道。
でも、今の契約社員というぬるい立場も悪くないと思っている自分がいたのだ。
「正直、白石さんがやってる仕事は正社員並のものです。マーケティング力にも長けてますし、パソコンの扱いも文句なし。控えめではありますが自分の意見を言うこともできます。……勝手ながら、本社には白石さんを正社員にしてはどうかと推薦しています」
「亘理さん!そういう大事なことは……」
「はい。本当にすみません。それは謝ります」
まさか彼が私の将来のことまで案じているなんて思ってもみなかったので、動揺した。
というか、私が契約社員であることに引け目を感じているって、彼に気づかれていたのかと戸惑っていたのだ。
「コマチで二人でずっと働けたらいいなと思ったから、つい身勝手なことをしてしまいました。それは自覚してます。ただ、白石さんの能力を発揮しないのは本当にもったいないなって思っていたので……」
亘理さんの言いたいことは、もちろん分かっている。
とても大事な仕事を私に任せてくれているのは感じていたし、それに応えたいと最大限の努力はしてきた。
そして、この仕事って楽しいなあと思うところまでは来ていた。それは事実だ。
マグカップを両手で握りしめて、目を伏せる。
「ちゃんとやっていけるか、不安です」
「やっていけますよ」
私の手を亘理さんの大きな手が包み込む。
「白石さんがいなかったら、俺はここまで頑張れませんでした」
「それは、私も……。亘理さんのおかげで、もっと仕事を好きになれましたけど……」
「じゃあ、答えは決まってるじゃないですか」