朝はココアを、夜にはミルクティーを


私たちの間にしばしの沈黙が訪れる。
なにか話した方がいいのか迷っていると、ようやく彼の方が口を開いた……が、それは予想外のものだった。

「つかぬことを聞きますが、白石さんはどうして前の職場を辞めたんでしょう?」

「─────え?」

なんで、この話でそういうことを質問してくるの?
思わず返す言葉に困ってしまい、彼から目を逸らして宙をさ迷わせた。

そんな私を知ってか知らずか、亘理さんはもうキーボードから完全に手を離して私を見つめている。
話す時に相手の顔をじっと見るのが彼の特徴かもしれない。


「これでも店長を任された身分なので、一応従業員のみなさんの情報は頭に入れておきたいと思って事前に履歴書を読んできました。その中で一番あなたが引っかかりました」

「……はあ」

「一流自動車メーカーに正社員で採用されておきながら二年で退職、ちゃんと事務系の資格もお持ちのようでしたし、不自由なことはありませんよね」

「不自由だらけですよ。再就職先が決まらなくて困ってましたから。私はここに拾ってもらったんです」

「……なんか納得いかないな」

ここで初めて亘理さんが眉を寄せて不満げな表情をした。
おそらく彼の質問に明確な答えを示していないのが原因なのは分かってはいたが。

「ちなみに、前職場でのお仕事内容はどんなことをしていたんでしょうか」

何が気になるのか、彼は私の過去についてぐいぐい質問を重ねてくる。
履歴書というのは確かにその人の歴史が書いてあるわけで、見る人が見れば私の経歴が不思議なものに見えるのはなんとなく察しがつく。

……でも今の時代、色々あるじゃん!
人間関係のこじれとか、大きなミスをしていづらくなったとか、そういうの!
それこそ察してよ!


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