朝はココアを、夜にはミルクティーを
ふっと笑った亘理さんの顔は、なぜか私よりも清々しい。
こっちの不安感はおかまいなしで、自分ばかり先に行こうとしている。
「待ってください!私はまだちゃんと決めては……」
「不安なら俺が全力で支えます」
……こんな時にときめくようなことを言わないで。
半分照れて睨んでいると、ふわりと彼に抱きしめられてマグカップの所在をどうすればいいかうろたえた。
「ちゃんと支えて、大切にします」
「……はい」
「二人で頑張りましょう」
「……はい」
結局、行き場をなくしたマグカップは私と彼の身体に挟まれて、そこからココアの甘い香りを放つ。
安心して身を委ねて目を閉じていると、さらに亘理さんの低い声が降り注いできた。
「それと、もう一点いいですか?」
「あ……はい」
呻くように返事をすると、驚くべき言葉を告げられた。
「俺のマンションに、引っ越してきませんか?」
「─────えっ!?ど、どういうことですか!?」
慌てて身体を離して顔を上げたら、彼は淡々と分析するような口調で話し出した。
「俺は一度、同棲で失敗しています。ですから今度はちゃんと気をつけます。失いたくないんです、白石さんを。本社に戻ったあとは店舗も異動になりますし、今こうしてお付き合いしましょうとなりましたけど、おそらく会える時間はほぼないと思います」
「そんなの……」
「俺も嫌です」
嫌です、と言う前に先に言われた。
「借りてるマンションは、本社の近くなので白石さんにとっては通勤時間が長くなってしまって不便かもしれませんが……」
「一緒に住みたいです」
通勤時間がどうとか、そんなのは大きな問題ではない。
今よりも早めに寝て、早めに起きればそれは解決することだ。
毎日会っていた彼に会えなくなるのは、きっと耐えられない。
私がはっきりと答えたので、亘理さんは一瞬息を飲んだように見えた。
こんなに即答されるとは思ってなかったのだろう。
「ココア、いつ飲みますか?冷めちゃいます……」
話をそらすつもりはなかったが、そういえばと手の中のマグカップをもじもじと緩く揺らしていたら、それは亘理さんに取り上げられてキッチンのカウンターに置かれてしまった。
「あとで飲みましょう」
「あとで?」
「今は、こうしていたいので」
亘理さんに再度抱きしめられて、私はフフフと笑ってしまった。
「仕事に遅れますよ」
「……ちょっとの遅刻なら許されます。店長の特権です」
「今度の休みに、家具を見に行きたいです」
「はい。行きましょう。店長の特権で無理やり休みを合わせます」
盛大に笑ったところでキスをされ、朝から体温が上がった。