朝はココアを、夜にはミルクティーを
真っ直ぐな視線に耐えかねて、仕方なく彼の疑問に答えることにした。もちろん、どうして辞めたのかは死んでも言わないが。
「私がしていた仕事は、主に販促やマーケティングです。キャンペーンやイベントを企画して、お店にお客様を呼び込むためのプランを練ったり、販促施策を担当したり……」
「そういうのって、入社してから経験が浅くても企画が採用されるんですか?」
「はい、わりと勤続年数は関係なかったですね。あとは需給調整もしていました」
「需給調整?」
「要は販売台数を最大化させるってことなんですが。過去のデータや店舗の特性を把握して、担当車種がその月にどのくらい売れるか予測するんです。生産部門には、工場で作ってから販売店に届くタイムラグを計算して要望を出します。なるべく損失は出さないように、できるだけ在庫は捌けるように……」
何が悲しくて、嫌な思い出しかない過去の話をしなければならないのかとも思ったけれど、仕事の話ならばまあいいか、と。付き合っていた人がどうのこうのみたいな話をしなければいいことだから。
あまり気分は良くないけど、亘理さんが言いたいことも分かるし。
一言では語り尽くせない仕事内容の話を、ここで亘理さんが遮った。
「もったいないですね」
「……はい?」
「白石さんの能力、もったいないですね。どこでも生かせそうなのに」
「いえいえ、私、今のこのお仕事けっこう楽しんでますよ!何も考えずにひたすらレジを打つのだって、仏になった気分で……」
余計な一言を漏らしたために、亘理さんの目がきらりと光ったように見えた。……気のせいだと誰か言って。
「大丈夫ですよ、レジの合間にも考えていただきますから」