朝はココアを、夜にはミルクティーを
何が大丈夫なのですか、と聞く暇もなかった。
おもむろに立ち上がった亘理さんを、私はただただ恐ろしいものでも見るように視線を送るしかできなかった。彼は隣に配置されているパイプラックから、なにやら分厚いファイルを二冊取り出すとこちらへ戻ってくる。
それをそのまま私の手元へドサッと渡してきた。
反射的に受け取った形になった私は、目を丸くして見上げる。
「この店の問題点は、おそらく白石さんなら半日ですべて割り出せるのではないでしょうか」
「……いくらなんでもそれは……、ねぇ?」
「俺一人が奔走したところで、何も変わらないと思うんです」
亘理さんが、淡々とした口調に似合わずにこりと微笑む。
「このファイルは、過去の部門別の売上データと仕入れ処分等の差異、見積もりなんかもほとんど載ってます」
「契約社員なんかの私が見ていいデータじゃないですよ」
「いえ、俺はあなたが一番信頼できる人だといま確信しました」
─────は?
とは上司に言えないので、ひたすら目を瞬かせて彼に無言の訴えを投げかける。
見事に無視された。
微笑んだまま、彼はパソコンをパタンと閉じて話を続ける。
「他の従業員のみなさんは、同じ質問をしても問題点も何も挙げてくれませんでした。なんか雰囲気が悪いですねって抽象的な方はいましたけど、わりと楽観的で。ブラマのことに触れたのも白石さんだけでした」
「みなさん、家事育児で疲れてらっしゃるから……」
「それなら独身の俺たちがやらないといけませんね」
くるりと振り向いた顔は、すべてを悟った顔。
やめてほしい、その顔すっごく苦手!
自分がいまどんな顔をしているか見たくはないが、きっと恐れおののいた顔をしているだろう。
「白石さんのマーケティング力に期待しています」
と締めくくられ、私は事務所から追い出された。