朝はココアを、夜にはミルクティーを


「いつから泊まってるんですか?」

「えーと、初日から」

「身支度はどうしてるんです?」

「服は初日の昼休みに一式だいたい揃えたんです。コインランドリーも近くにあるし便利ですね。あ、お風呂はバイパス沿いの極楽湯に行ってますから不潔じゃないですよ」

「…………どうしてそうなったんですか?」


核心をついたはずなのに、亘理さんはいつものあの淡々とした話し方をやめなかった。
まるで他人事みたいに、隠すこともなく開けっぴろげに話した。

「同棲していた恋人に、部屋を乗っ取られました。そして彼女は新しい恋人と住み始めてしまって。どうしても必要なものは持ってきていたし、服とか私物は処分してもらうことにしました」

「の、の、乗っ取られた?」

「はい、家に帰ったらすでに二人はベッドにいて、それで」

「や、やめて!それ以上聞きたくない」

そうですか、と亘理さんは気にすることもなく話をやめ、先程まで向き合っていたパソコンにまた視線を戻している。
彼女が浮気していてムカつくとか、恋人をとられて悔しいとか、そういう感情はないのだろうか?私には理解できない!

住む家がなくなって、不安にもならないところが不思議。
私なら慌てて新しい家を探すのに。

「面倒なんですよ、物件見に行ったりするの」

私の心の声が聞こえてるみたいに、彼がつぶやいた。

「この店舗を立て直すまでは、ここに泊まっていたいくらいです。さすがにダメですかね」

「ダメに決まってますよ!」

「うーん、そうですか」

「こんな布団も何もないところで寝泊まりなんて、絶対にいつか体壊します!しかも仕事とプライベートが一緒になっちゃって、ずーっと仕事してることになっちゃうじゃないですか」

私には分かる。この人、たぶん毛布にくるまってそのへんに寝転がってるんだと思う。睡眠のために何が必要かなんて関心がなさそう。

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