朝はココアを、夜にはミルクティーを
すると、「俺は気にしないんだけどなあ」という返しが耳に入ってきた。
「ずっと仕事をしていることに、別にストレスは感じないんですけど。性格的に普段からあまりイライラもしませんし」
あまりにのほほんとしているので、なんだかカチンと来てしまった。
どれだけ仕事が好きなのかは知らないが、どっちにせよ非常識であることには変わりない。
職場をホテル代わりにするのだって、社会人としてはおかしいのだから。
「知りませんからね、風邪引いても」
「……はい、大丈夫です。自分でなんとかできます」
「休みの日にでも物件見に行ってくださいよ。本社に言いつけますから!」
「今度の休みは本社に報告書を持っていったりするので、どちらにせよ物件巡りは無理ですね」
「じゃあいつ休むんですか?」
「…………………………さあ」
肩をすくめた亘理さんに、私は笑顔も向けずに「帰ります」と伝えた。あっさりと了承し、軽く手を振ってくる。
「お疲れ様でした。また明日もよろしくお願いします」
「お疲れ様でしたっ」
バタンとドアを閉め、駆け足で通用口から出て車に乗り込む。
車のエンジンをかけたら、小刻みに振動が身体に伝わってきた。ボーッという少し大きめの暖房の音が、冷たい車内を頑張って暖めようとしている。
─────あの人、どうかしてる。
どうせ仕事にかまけて、彼女を放置したに違いない。それで、彼女の方も我慢の限界が来て浮気したのだ、おそらく。
彼ならば浮気現場を目撃しても大して動揺しなそうだ。事実を静かに受け止めて、さようならと言ってそうだもの。
ハンドルを握り、出発しようとするものの、なかなか発進する気になれなかった。
放っておきなさい、ともう一人の自分が言い聞かせてくる。
分かってる、関わらない方がいいに決まってるもの。
でも、店舗と違って事務所は暖房の効きが良くないし、硬い床に毎晩寝ていたらいくら健康優良男子でもさすがに支障をきたすと思うのだ。
「あーーーーーーもう!」
お財布なんて、取りに来なければよかった。
お節介な自分が嫌になってくる。
私は事務所へ舞い戻り、また来た契約社員の顔を不思議そうに見つめる亘理さんに声をかけた。
「寝泊まりするだけでいいならうちに来てください」
これにはさすがの彼も目をまんまるにして、驚きを隠せていなかった。