朝はココアを、夜にはミルクティーを
「そこそこ、って表現やめてよ!」
悲鳴めいた声を上げたあと、ハッと我に返る。
ここは、どこ?
慌てて周りを見回すと、見慣れた休憩室に見慣れた情報番組に、見慣れた学生バイトやパートのおばちゃんたちの驚いたような顔。
一瞬ポカンとした空気が流れてから、すぐに室内は大爆笑へと変わった。
「あはははは!瑠璃ちゃん、なんの夢見てたの?」
パート歴の長いベテランレジ係の大熊さんがバシッと私の背中を叩く。けっこう強めだったので、即目が覚めた。
熊という字がつくのに相応しい大柄体型の大熊さんは、隣にドカッと座るとなにやらティッシュで私の口のあたりをゴシゴシと拭いてくれた。
「まぁ〜、ほらこんなにヨダレたらして。爆睡ね、爆睡」
「す、すみまふぇん」
「キレイな顔が台無しよ!よし、これでオッケー」
食べ終わって広げたままだったお弁当をしまいながら、私は情けないなら恥ずかしいやらで縮こまった。
「ちょっと……変な、いや、イヤ〜な夢を見てしまって……」
「あらまぁ。でも嫌な夢って現実ではいいことが起きる暗示なんだってよ?大丈夫、大丈夫。いいことあるわよ」
「はぁ……」
大熊さんに励まされながら、他のみんなと一緒に休憩室を軽く片付けて部屋をあとにする。
これから午後の仕事だ。
いつの間に眠ってしまったのか、テーブルに突っ伏していたために頭を支えていた腕がまだちょっと痺れている。
店員全員お揃いの水色のエプロンの紐を、ウエストで一度回してから前でギュッと縛る。
大熊さんはウエスト周りが太めで紐を一周させることが出来ないらしく、後ろでリボン結びにしていた。
くそー、よりによってあの頃の夢を見るとは!
消したい過去!黒歴史!小池と山越のバカヤロー!!
重い荷物を運んだり、暑いところや寒いところを出たり入ったりするし、いつの間にやら化粧は薄くなった。
そしていつしか、休憩終わりに化粧直しすらすることが無くなった私は、腕の痕が残った額をそのままに店頭へ繰り出した。
え?女?捨ててませんよ?
い、一応ね。