朝はココアを、夜にはミルクティーを
出来上がった熱々のミルクティーをリビングへ運び、二人で並んで座ってフーフー冷ましながら飲んだ。
いつもは一人でやっていることだけど、きっとこういう風景はこれからしばらく続くのだろう。そんな気がした。
「美味しいです、とても」
「良かったです。学生時代にカフェでバイトしていたので、こういうのはササッと作れちゃうんです」
「けっこう手間なのにすごいですね」
そんなことはないです、と形だけ謙遜しておいた。
美味しいというシンプルな言葉は、ヘタに違う表現で伝えられるよりも一番嬉しかったりする。
「あの、聞いてもいいですか?」
もう深夜と言ってもいい時間。
でも、もう寝ようという話にはなかなかならない。亘理さんはとても居心地が良さそうに、ミルクティーを飲んでいた。
私に話しかけられて、彼はすぐにどうぞとこちらを見つめてきた。
「ショックでしたか?その……彼女が男の人を連れ込んでたのを見つけた時って……」
だって、亘理さんはいつでも淡々としている。
さっき帰る家をなくした経緯を話してくれた時だって、ちっとも精神に堪えていないような話ぶりだったから。
彼は私の質問を受けて、考えているような素振りも見せぬまま笑みを返してきた。
「まあ、一応ショックは受けたんですけど、思っていたよりも冷静な自分がいました。他に好きな人がいるのかな、と少し前から感じていたので」
「そうですか……。亘理さんってあまり怒ったりしなそう」
「怒りますよ、普通に。腹が立つことがあれば」
「その時は?怒らなかった?」
「怒りませんでしたね。それよりも一瞬で冷めちゃいました」
そもそも俺が悪いんですよ、とつけ加えた。
「転職する前から関係は良好とは言えませんでした。嫌なことがあったからって彼女に愚痴ることもなく溜め込んでいたので。違う職場で仕事に慣れるまではいっぱいいっぱいでしたし。彼女にかまう余裕もありませんでしたから」
「彼女を責めたりはしないんですね」
「まあ、結婚を考えていたくらいの相手だったので。彼女を責めるというよりは、自分を」
─────不思議な人。
率直にそう思った。
パッと見て聞いているよりも、この人はわりとちゃんと思いやりを持っているようだ。
淡々としているのは、単にそういう話し方しかできないだけなのかもしれない。