朝はココアを、夜にはミルクティーを


なんて失礼な人!なんて非常識な人!
同居するならと家賃から光熱費から食費から何から何まで折半してくれるって言うからなんだかそれも申し訳なくて、せめてと思っていつも作っているお弁当を二人分作って彼に渡したのだが、そんなことをしなければよかったと後悔する。

あの口振りだと冗談のつもりかもしれないけど、普通それをわざわざ言うかな!?


「瑠璃ちゃん、おはよう」

「……おはようございます」

「あら?どうしたの?眉間にシワ寄せて」

挨拶を交わしただけだっていうのに、やはり母親世代の大熊さんには私の変化はすぐに分かるらしい。即刻指摘してくるあたりが彼女らしい。

私はまだ腸が煮えくり返る思いだったけれど、なんとかそれを封印して笑顔で取り繕う。

「いえ、大丈夫ですよ!さ、今日も頑張りましょう!」

「そうね!……って言っても相変わらずお客様はいないけどねぇ」

閑散とした店内には、お客様の姿はほとんど見られない。
いつもの風景と言ったらそうなのだが、危機感を持たずにはいられない現状である。

これだけお客様がいないのだから、店頭に立つ従業員も少なくて済むわけだ。


「大熊さん、ちょっと私、店内を回ってディスプレイ変更案を練ってきてもいいですか?亘理さんに頼まれていて……」

「ディスプレイ?変更するの?」

「はい。あと、集客できるようなイベントも考えたくて」

これを考えて彼に持っていっても、次から次へとやることを指示されるんだろうなと思うと頭が痛くもなるが。文句は言ってられない。
伸び悩む売上が変わらないと、契約社員である私が切られるのは目に見えている。
その前に店舗閉鎖?

漏れそうになるため息を我慢していたら、大熊さんが楽しそうにアハハと笑った。

「イベントねぇ。そういうのいいわね!クリスマスシーズンにもなるし、なんとか利用したいところではあるわよね!」

「クリスマス、か」

─────そういう季節ごとのイベントを、すっかり忘れていた。



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