朝はココアを、夜にはミルクティーを
5 少しずつ、少しずつ


翌朝、起きたら目の前に亘理さんが土下座していた。

「……おはようございます」

「白石さん、大変申し訳ありませんでした。おはようございます」


なんの土下座かは察したけれど、私はむくりと起き上がってボサボサになっている自分の髪の毛を手ぐしでとかす。
土下座した状態からちらりとこちらを覗いた彼は、再び頭を深々と下げてゴツンと床に額を当てた。

「本当に本当にすみません。記憶がありません」

「大丈夫です。つけっぱなしのパソコンを切ったら、布団に連れ込まれただけです」

「全然大丈夫じゃないですよ、それ!」

思わず顔を上げて言い返してきた亘理さんは、ハッと我に返ったらしくまた頭を下げる。

「俺……何もやらかしてはいませんか?」

「これといってされてません」

「はあ…………、良かったです」

ここでようやく頭をゆっくりと上げた。
寝癖が方々に散って、こんがらがった髪型になっている。こんな気の抜けた姿を見せられると、つい笑ってしまいそうになった。

「睡眠不足は良くないですよ、昨日みたいなことになりかねない。もしかして、いつも抱き枕つかって寝てます?」

「お恥ずかしいですが、その通りです」

抱き枕愛用者です、と正座したまま認める彼が最高に面白かった。
きっと抱き枕を持ってくるのを忘れたんだろうな。必要最低限のものだけ持ち出したって言っていたけれど、抱き枕の発想はなかなか出てこない。

亘理さんはワナワナと両手を震わせて、妙な手つきで指を動かした。

「白石さんを抱き枕にしてしまったんですね、俺」

「やめてくれませんか?その手つき、なんかいやらしい!」

「揉んでないと思います、……たぶん」

「こっちだって揉まれた記憶なんかないです!」


朝からコントみたいな会話を繰り広げながら、私は寝室の引き戸をしめて着替える。
亘理さんも支度を始めたのか、洗面所から歯磨きをする音がした。

彼は今日は中番のはずだけど、やはり早番と同じ時間に出勤するつもりらしい。結局、毎日通しで仕事をしているわけだ。
それが嫌という感じではないし望んでやっているようだけど、色々と心配になる。

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