朝はココアを、夜にはミルクティーを


今日も、コマチにはお客様が来ない。
いつものこととはいえ、やはりなんだか寂しい。

木枯らしどころか凄まじい寒風でも吹き荒れているんじゃないかと時々思う。ちゃんと暖房は効かせているはずなんだけど。


鮮魚担当の社員さんが、仕事がひと段落したとのことで今は外の草むしりに行っている。
私はパートの大熊さんとレジを交代しながら、店内の商品の在庫チェックをしていた。

「売れてないから在庫も昨日と大して変わんないんだよね……」

ぼそっと悲しいつぶやきをついしてしまう。


亘理さんはこのお店を良くしようと頑張ってくれてはいるけれど、まだちゃんと実行には移せていない。観察と計画の段階であり、すぐさま動かせないというのはもちろん分かっている。

でも、このままでは本当に閉店に追い込まれてしまう。


「瑠璃ちゃん、あとでローストビーフの試食片付けておいてもらえる?」

レジの方から大熊さんが声を飛ばしてきたので、はーいと元気よく返事をしておいた。
お客様がほとんどいない店内では、こうして遠くにいる従業員同士で叫ぶように会話するのも当たり前になってしまった。

日用品の点検補充は済んだので、大熊さんに言われたように精肉コーナーに試食として出していたローストビーフを試食台ごと撤去する。

このローストビーフだって、朝に担当者が綺麗に切り分けて置いてくれたものだけど、あまり減っていない。お客様が来店していない証拠だ。


従業員用の廊下に試食台を寄せて置き、ローストビーフは破棄。台はしっかり消毒して乾かしておく。
爪楊枝は所定の棚に戻して、ゴミ箱の中身もきちんと捨てておいた。

こんなことをしていても、お客様が来てくれないのだから消毒の意味なんてあるのかなと考えてしまう。


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