朝はココアを、夜にはミルクティーを
「各部門の担当者に伝え終わったら、もうひとつお願いしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんですか?」
丸まった資料を手で伸ばしながら聞き返す。
すると彼は、今度はポケットから携帯を取り出して画面を私に差し出してきた。
なんだろうと覗くと、思わず「あ!」と声が出た。
「クリスマスツリー!」
「はい。すみませんがお店に合ったサイズのものを色々検討したのですが、白石さんの希望する大きなものは難しそうでした。ですが、最大限努力してこちらのツリーを注文しておきました。明日届きます」
「嬉しいです!」
ツリーなんて珍しいものでもないし、時期になればどこにだって置いてあるものだ。
だけどなぜか、コマチではクリスマスソングは流れていても店内をそれらしく飾りつけていても、ツリーだけは置いていなかったのだ。
それがなんとなく寂しいなあと思っていたので、今年は置いてくれるのが嬉しかった。
素直に喜んだら、亘理さんも目を細めて笑ってくれた。
とても優しくてあたたかい視線を受けて、ちょっとだけドキッとする。
「それでですね、白石さんにはツリーの装飾品を買ってきてもらいたいんです。あと、店内用にも新しくいくつか合いそうなものを選んでいただけるとありがたいです」
「え、私でいいんですか?」
「こういうのは若い女性の方が向いてますから。学生のバイトさんもほとんど辞めちゃってるし、白石さんならセンスもありそうです」
「…………プレッシャーかけてません?」
「いやあ、そんなつもりは」
じろりとわざと睨むと、亘理さんは困ったように頭をかいて苦笑いを浮かべた。
こんな意地悪を言うつもりはなかったのに、どうしてなのかつい余計なことを言ってしまう。
「嘘です。今日、仕事が終わったら買ってきます」
すぐに態度を改めると、突然彼が慌てたようにダメですよと首を振った。