朝はココアを、夜にはミルクティーを
「それでは残業代も出ませんから、勤務中に外出する形を取ってください」
「えー、いいです別に。残業代はいりません。急いで帰らなくちゃって焦っちゃうし。じっくり見たいんです」
「それとこれとは……」
「亘理さんだって家で残業してるじゃないですか!私も今日だけサービス残業させてください」
「あとあと本社に報告できなくなっちゃいます」
「もー!いいんです、報告なんてしなくていいんですよ」
自分はあれだけ時間外に仕事をしておいて、他人にはうるさく言うなんて。自己犠牲を払いすぎだ。
私は知っているのだ。
彼がここに来てから毎日通しで仕事をしているのに、勤務は定時で上がっていることになっているのを。
別に本社に報告することを躊躇っている感じでもない。うちの会社はそのへんはクリーンで、残業したらしたで申請すればきちんとお給料に反映される。
だからきっと、彼の意思で勝手にやっているんだと悟った。
どうしてそこまで頑張るのかは分からないけれど熱意だけは感じるから、私まで感化されてしまった。
「じゃあ俺も行きます、装飾品の買い物」
「え!?」
思いがけない申し出に、私はびっくりして目を丸くした。
「荷物だって多くなるだろうし、白石さんの軽自動車に全部積めます?」
「つ、積めますよ!軽自動車なめないでください!」
「今日、俺は中番なので少し待っていてください」
「あの、話聞いてます?」
「仕事が終わったら休憩室に顔出しますから。よろしくお願いします」
彼は言うだけ言って、私の反論は聞き入れずにさっさと行ってしまった。
その場に立ち尽くしていた私は、手に持っていた資料のことを思い出して慌ててコピーをとりに動き出した。