朝はココアを、夜にはミルクティーを
「私……今月いっぱいでバイト辞めることにしたんです」
「えっ!?そうなの!?どうして!?」
突然の紗由里ちゃんの申し出に、私は驚きとショックで思わず声を上げる。
慌てて声が大きすぎたと口を閉じるものの、お客様はほとんどいないので問題ない。その事実にまたガッカリする。
紗由里ちゃんは私とほぼ同時期に入った、いわば同期みたいな関係だった。年齢は違えど仲良くしてきた仲間。
いきなり辞めると言われて、切なくならないわけがない。
「急に辞めることになっちゃってすみません……。でも、先月からぐっとシフト減らされちゃったから、全然稼げなくて。掛け持ちしようかとも思ったんですけど、体力持つか自信がなくって。親にも他にバイト探したらいいんじゃないかと言われまして……」
紗由里ちゃんも若干落ち込んだような顔で私に説明してくれた。本意ではないというのは伝わってくる。
以前、彼女は大学を卒業するまではここでバイトしていたいと話していたのを思い出した。
まだあと一年あったのに。
でも、彼女の選択を責めることは出来なかった。
「そりゃそうか……。これだけ売上が落ちたら人件費削減しないといけないもんね……。店長も泣く泣くシフト削ってるってこの間言ってたし」
「そうなんです。その煽りを受けるのは私たちバイトやパートさんなんです〜……」
「紗由里ちゃんが辞めちゃうなんてすっごい寂しいよー!」
今どきの子にしては珍しくかなり真面目な子で、妹みたいに可愛がってきただけに別れが惜しい。
すっかり仕事の手を止めて話し込んでしまった。
「またうちに泊まりに来て!絶対!」
「行きます行きます〜!瑠璃さんが朝に作ってくれたココアの味、忘れられないです!また作ってくださいね!」
「あんなので良ければいつでも!」
お客様がいないのをいいことに、私たちはヒシッと抱き合う。
そんな私の腕の中で、紗由里ちゃんがボソッと不吉なことをつぶやいた。
「瑠璃さんは大丈夫ですか?契約社員ですよね……お給料は固定だって聞きましたけど、契約切られたりとかそういうのは無いんですか?」
「…………………………そうなんだよね」
それは私も危惧していることだった。