朝はココアを、夜にはミルクティーを
「根詰めて夜遅くまで仕事をしていると神経がすり減りますけど、この時間で一気に回復します。今日も美味しいです」
「ありがとうございます、お褒めいただいて。あと、ラーメンもごちそうさまでした」
必ずミルクティーを美味しいと褒めてくれるので、素直にお礼を伝える。
私がソファーで、彼は敷布団の上に座って、飲み終わるまでなんてことない話をするだけだ。
誰かと住むと、こういう何気ない会話がいいなと実感する。
一人きりだと、テレビを見たり雑誌を読んだりしながらで何か言葉を発することもない。人がいるってだけで、さらに心が温まるように感じる。
それが誰でもいいのか、亘理さんみたいな人がいるからそう思うのかは謎である。
「あ、そうだ」
あと少しでミルクティーを飲み終わる頃、亘理さんが思い出したように立ち上がってごそごそとバッグの中から何かを取り出した。
インテリアショップの袋が見えて、なんだろうと私は身を乗り出す。
「ご迷惑じゃなければ、と思いまして」
ビニール袋から出てきたのは、手のひらサイズの小さな小さなクリスマスツリーだった。コロンとしていて、揺らすと中に仕込んである鈴が鳴る。
「え!これどうしたんですか?」
受け取った私はユラユラ揺らして鈴の音を確かめながらも、少し驚いた。
「日頃のお礼です。家を貸していただいたり、お弁当や食事を作ってもらってますし。こんなものでお礼にはなりませんが」
「ちゃんとお金も折半してるのに」
「でも一人で暮らすより手間は増えましたよね?……あ、迷惑ですか、こういうの」
すみません、とつぶやきながら亘理さんが私の手からツリーを取り上げようとしたので、ブンブンと首を振って渡さなかった。
「ありがとうございます!ツリーを置く場所がないので、毎年諦めてました。これなら飾っても場所を取りません」
「良かったです。なんか、ツリーツリーってすごいこだわってらっしゃったので」
「あはは、昔よく家族で飾りつけていて、楽しかったんですよ。クリスマスと言ったら、ツリーだなあって思ってたので」
共働きの両親と唯一クリスマスらしいイベントが出来るのは、ツリーの飾りつけの時くらいだった。サンタさんも来てくれていたし、ケーキもみんなで食べたりしたけれど、ああでもないこうでもないと言いながらツリーを綺麗に飾る時間が一番好きだった。
「もう少しだけ、仕事が落ち着くまでいさせてください。そのうち必ず部屋探し、しますから」
丁寧に頭を下げられてしまったので、言葉に詰まる。
しどろもどろになりながらも、小さくハイと返事をした。
私の手の中のツリーは、点灯もしないし煌びやかな装飾も施されていないけれど、なにかほのかに灯ったような気がした。
それがなんなのかは、まだ分からないけれど。