朝はココアを、夜にはミルクティーを


ここ数日で、お店は一気に華やいだ。
先日購入した装飾品と、以前も使用していたものの中からまだ使えそうなものを倉庫から出して、店内に流れる音楽も誰しもが口ずさめる明るくて元気なクリスマスの曲にしたり、ムード作りは成功したと思っている。

亘理さんが来てからまだ少ししか経っていないけれど、他の従業員たちもお店の敷地内の清掃や雑草とり、看板やポップなども見直して、外観もガラッと変わるまでは行かないけど小綺麗にはなった。

指示を受けるだけじゃなくて、部門別にどうしたらいいのか担当者たちで話し合ったり、亘理さんがアドバイスしたものに自分たちの意見もくっつけて討論したり、だいぶ意識は改革されたように見える。


─────でも、残念ながらそれは集客には一切結びついていなかった。


「暇ねぇ」

ツリーにぐるぐると電飾を巻きつけて、大熊さんがため息をついた。
賑やかな音楽が虚しくなるほど、お客様はやってこない。

結局お店の中を変えたところで、外にいるお客様に対するアプローチがまだ何もなされていないのが大きな原因だ。
そのあたりをどうするのかという計画書を、亘理さんが昨日夜遅くまで家のパソコンで作っていたから、明日には具体的にまた話があるはず。


「みんな、きっとブラマに行っちゃうのよね」

大熊さんのつぶやきは切実な響きを持っていて、同調せざるを得ない。事実、ブラマの売れ行きは好調のようで、少し前の地元の新聞にも「連休にはブラマの新店舗に向かう車で国道が渋滞!」と載っていた。

そんな渋滞にわざわざ乗っからなくたって、少し道を外れて進めばうちのお店にサクッとたどり着けるのに。


「大熊さんは、ブラマには行ったことあります?」

私が尋ねると、彼女はもちろんよと笑った。

「娘と服を買い物したり映画を観たりするから、そういう時はブラマに行っちゃうわね。瑠璃ちゃんは?」

「私はそんなにしょっちゅうは行かないんですけど、ブラマに入ってるファストファッションのお店が好きなので時々……」

「便利なのよねぇ、ついでにおかずも買えるし。逆も然り、でしょ」

「分かります」


私もコマチで働いていなければ、普通にブラマに通っていただろうなと思う。大型の便利なお店が近くにあったら、そちらへ足を向けるのは当たり前だ。

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