朝はココアを、夜にはミルクティーを


立ち上がってシャベルで土を掘り、しゃがんでお花を植えて、それを繰り返し、さらには大熊さんと談笑しているようだ。
もしかして、よくお店に来る常連さん?

後ろ姿だけでも、とても洗練されていてスーツの着こなしもきれい。
少し長めの髪の毛は、風に吹かれるたびにふわふわと揺れていた。

あ!まさか大熊さんの息子さん?
でもあんなに大きいんだっけ?


「……大熊さん!」

思い切って声をかけると、大熊さんが振り向くと同時に隣にいた彼もこちらを向いた。
そこで私は、びっくりして目を丸くしてしまった。

「え!?わ、わ、亘理さん!?」

「あ、お疲れ様です、白石さん」

ぺこりと丁寧に頭を下げたそのスーツ姿の人は、店長であり同居人でもある亘理さんだったのだ。
朝、一緒にココアを飲んだところまではスウェットだったし、今朝は本社に行くからといつもよりのんびりしていて私の方が先に出たから分からなかった。

亘理さんのスーツ姿は、予想をはるかに上回るほどに似合っていた。
いつも従業員お揃いの白いトレーナーに黒いスラックスという出で立ちしか知らないので、あまりの違いに動揺を隠しきれない。

驚きすぎて呆気に取られている私をよそに、大熊さんが笑顔で額の汗を拭う。

「瑠璃ちゃん、ごめんねぇ。もう少しで終わりそうだから、それから休憩とっても大丈夫?亘理さんが手伝ってくれてたから、とてもはかどってるのよ!」

「そ、そうだったんですね。……亘理さんも、お疲れ様です」

なんだか直視できなくて思いっきり目を背けながら言葉をかけると、聞いてもいないのに彼はこの状況を説明してくれた。

「本社への報告や書類の提出も終わりましたし、色々これからのことも相談できたので、せっかくだからすぐに皆さんにお伝えしようと思って。そしたらここで大熊さんがお一人で素敵な庭を作ってくれていたので、手伝ってました。あっ、あとでミーティングしてもいいですか?」

「は、はい……」

なんとか返事を絞り出す。

「あと、クリスマスケーキの件、引き受けてくれるところを見つけました。きっと白石さん、びっくりしますよ。聞きたいですか?」

「いえ、今はいいです……」

なんか、いっぱいいっぱいなので。
首を振ると、怪訝そうに彼の眉が寄せられた。

「白石さん?体調でも悪いんですか?」

「…………あの!」

ダメだ!調子が狂う!
拳を握りしめて、あさっての方を向きながら亘理さんに怒鳴るみたいに吐き捨てた。

「お願いですからスーツ着るのやめてもらえませんか!?」

「─────ええぇ!?」


これには亘理さんだけでなく大熊さんも、何が何だか分からないような顔をして私を見ていた。





< 58 / 162 >

この作品をシェア

pagetop