朝はココアを、夜にはミルクティーを
結局、亘理さんはスーツを脱いではくれなかった。
まあ脱げという方がおかしいのは十分分かってはいたけれど、いかんせん別人のようで私の心が落ち着かない。
しっかりしなくちゃ、私。今はミーティング中なんだから!
ブンブンと頭を振って、社員さんにまじって契約社員である私と他数名が亘理さんの話を聞いていた。
「以前から本社に掛け合っていたお惣菜は、定番以外メニューを一新します。お寿司や唐揚げは売れ筋ですから、こちらには力を入れていこうと思います」
お惣菜部門と鮮魚部門を担当している社員さんとはあらかじめ打ち合わせが済んでいたようで、亘理さんの話を聞いても動じていない。
当たり前といえばそうなるが、契約社員と正社員ではどこか壁があるような気がしてならない。
契約社員はいろいろな面で知らないことの方が多い。
「利益率を最優先に考えてやっていかないと、このお店は赤字を繰り返すばかりでなんの解決にもなりません。いくら新鮮な食材を置いたって、お店を飾ったって、集客しなければなんの意味もありませんし、我々の努力も泡になってしまいます」
「チラシはどうするの?」
と、飛んでくる質問にも亘理さんは冷静に返す。
「チラシは一応、俺がすべて作ります。目玉商品でお客様に食いつかせるようなものを必ず一日に何品か用意して、集客を狙うしかないですね。それと、料理教室のアイデアは採用になったので、早速地元紙に載せてもらうことにしました」
チラッと彼が私に視線を送ってきたので、心臓が跳ねた。
……違う違う、料理教室の案を出したのは私だから、それでこちらを見ただけ。
いつもダラッとしている人がスーツを着ただけで、戦闘服みたいに凛々しく見えるなんて少女漫画じゃあるまいし。
私が微笑みを返す前に、彼の視線は外されてしまった。