朝はココアを、夜にはミルクティーを
そもそも、諸悪の根源は黒いアイツなのだ。
その名の通り、『ブラックマーケット』通称『ブラマ』。
まさに黒いアイツ。
ブラマと言えば誰もが知っている超大型ショッピングモール。
食品だけでなくファッションや家電家具などのインテリアも扱う、有名中の有名な黒いアイツ。
それが、あろうことかこのお店から車で五分のところに出来てしまったのだ!!
車で五分と言うと、歩けばわりと距離がある。だからこのへんに住む人たちはブラマにはなかなか行けないだろうから、そんなに心配しなくても大丈夫だと店長が呑気に構えていたのが良くなかった。
当然のごとくブラマは無料のシャトルバスを運行。二十分に一本のペースで地域毎にぐるりと走っていて、車がない人でも気軽に行くことが出来るようになってしまったのだ。
郊外に作るのだから、そういった対策を講じてくるのは予想出来たはずなのに。
こちらは何も手立てなんか考えていなかった。
おかげで財力も品揃えも適うわけがないこのお店は、見ての通り残念な結果になってしまったわけだ。
「この前、ブラマのエリアマネージャーとかいう人が偵察に来たらしいのよ。店長が声かけられたらしくて」
一応、形だけは業務に戻った私がパスタ棚を出し入れしながら、同じく形だけ在庫チェックをしている紗由里ちゃんに店長に聞いたことを伝え話す。
ふむふむと興味深げな瞳がこちらへ向くのが分かった。
「でもね、名刺交換して店内ぐるっと見られて、そんでフフッて鼻で笑われて、これといった話もすることなくさっさと帰っていったんだって。時間の無駄だって言わんばかりに」
「えーーー!酷い……」
「でしょー!?」
でも、私が何に対して頭に来たかって言うとブラマのエリアマネージャーに対してではない。
それをのほほんと困ったように笑って話してきた店長に頭に来たのだ。
絵に描いたような人の良さそうな顔をしている店長は、そのまんまお人好し。そして超がつくほどの楽天家。
接客する立場としてはお客様ウケもいいので得するかもしれないけれど、お店を仕切る立場となるとちょっと微妙だったりする。
毎日来てくれていた常連さんもパッタリ姿を見せなくなって、売上も急激に落ち込み、吹いてもない木枯らしが店内に吹き荒れているんじゃないかと感じるこの頃。
ブラマが悪いんじゃない。
このお店の覇気の無さが問題なのではないだろうか。
そしてその覇気の無さは、店長の人柄から来てるんじゃないか?なんて考えてしまうのだ。
優しすぎて、中だるみしてしまった感はどうしても拭えなかった。
ただし、残念な事に私は単なる契約社員。
そんな契約社員ごときが口出ししていいような話ではないので、どうにも出来ない。
それがまた虚しさを増長させた。
契約社員なんて、契約更新されなければ一瞬にして無職になるわけで。
この状況では私のような存在はすぐに切られてしまうことは目に見えていた。