朝はココアを、夜にはミルクティーを


「実のところ、工場を通さず店舗内で作ったものでないと利益率が悪いんです。なにかしら加工することで利益率は上がっていきますから、申し訳ないですが青果や鮮魚は叩き売りとまではいかないものの、集客するまでの役割になります、………が」

持っていた資料をパタンととじて、亘理さんが顔を上げる。
その顔は、自信に満ちていた。

「そんな虚しいことを言っていられるのは今のうちです。巻き返して店内が賑わう日は必ず来ます。その時には、もっとこの野菜の種類を増やしてほしいとか、あの魚を置いてほしいとか、そういうお声をいただけるようにしましょう。とにかく今は、利益にこだわる。それを従業員一同念頭に置いてほしいです。……いきなり来た生意気な若造にこんなことを言われても、やる気は起きないかもしれませんけど、俺はみなさんと働けてとても楽しいです」


自分よりも、明らかに年上、いやもう年配といってもいい社員さんだっている。
そういう人たちの上に立って指示を出すのは、多少なりとも気を遣うはずなのだ。今まで亘理さんはそういった姿を見せたことはなかったけれど、今日このミーティングで初めて彼の本当の気持ちを聞けた気がした。

クスクスと室内に不思議な笑い声が漏れ出す。
まさか笑われると思っていなかったらしい亘理さんは、ちょっと困ったような表情で口を閉ざしてしまった。そんな彼をフォローするように、社員さんたちが口々に言葉をかける。

「生意気だなんて思ってないから大丈夫だよ」

「ちゃんと店のことを考えてくれてるのはよく分かってるし」

「そりゃ最初は変なやつが来たって思ったけどね」

あははと笑い合う社員さんたちもまた、楽しそう。
前の店長も人情味に溢れていてすごくいい人だったし、私も大好きだった。
でも、亘理さんみたいなタイプの人も、悪くないなって思ったのは事実。
みんなも同じなんだろう。

ありがとうございます、とまごつきながらお礼を言う亘理さんが、これまたおかしかった。

< 60 / 162 >

この作品をシェア

pagetop