朝はココアを、夜にはミルクティーを
和やかな雰囲気でミーティングは終わりかと思いきや、そうではなかったらしい。
最後に重大な発表があった。
パラパラと席を立とうとする社員さんたちを、亘理さんが慌てて引き止める。
「すみません、もう少しだけお付き合いいただけますか?」
なんだろう、ともう一度席についてキョトンとしながら彼を見つめると、亘理さんは机に置いていた鞄から、カラー印刷されたカラフルな書類を取り出した。カタログのようなものだった。
それらは四枚あり、すべてをホワイトボードに貼り付ける。
─────クリスマスケーキのデザインだった。
「うわーっ、すっごいオシャレ……」
後ろから、ひと回りほど年上の私と同じ契約社員の先輩がつぶやくのが聞こえた。
私も彼女とまったく同意見だった。
どのケーキもフルーツやクリーム、マカロン等をふんだんに使っていて、クリスマスケーキなだけあって赤いフルーツが鮮やかだ。
タルト生地のものと、ドーム型のもの、ホールのもの、ハート型のもの、形も様々。だけどどれも可愛らしくておしゃれ。
こういった飾りつけは、大量に生産されるようなチェーンのケーキ屋さんではあまり見かけない。
なんというか、まさにその道を極めるパティシエみたいなひとが作っているような、それくらい細部にまでこだわりが見られるケーキばかりだった。
全部、美味しそう。
ゴクッと喉を鳴らしていたら、亘理さんがニコッとこちらへ微笑みかけてきた。
気のせいか、私に笑いかけているような?
今度は心臓は跳ねなかった。
むしろ逆に、嫌な予感がしたのだ。
「今回、クリスマスケーキを提供してもいいと依頼を引き受けてくださったお店があります。それは、カツヒコヤスダです」
「─────え!?」
そのお店の名前を知っていたのは、私を含めた女性陣数名と若い男性社員さん。
年配の方々は目の中にはてなマークを浮かべていた。
「わ、亘理さん!本当ですか!?」
「はい、本当です。こちらの四種類を提供してくださるそうです」
何かの間違いじゃないかと思って聞いたけれど、本当にカツヒコヤスダのケーキらしい。
わなわなと震える私たちに、他の人たちは一切ついてこれていない。
「カツヒコナントカってなんだ!?」と亘理さんは問い詰められていた。