朝はココアを、夜にはミルクティーを
パリッとスーツ姿を決めた亘理さんは、このお店で先走りした噂の「ハイスペック敏腕店長」みたいな雰囲気(あくまで雰囲気)を醸し出していて、いつもスーツを着ていたらそう見えるのかな、なんておめでたいことを考えてしまった。
周りからも「楽しくなってきた」なんて声が聞こえてきて、私もウキウキしていたのだけれど。
私に歩み寄ってきた亘理さんは、なにか小さな紙切れを私に渡してきた。
手のひらに折りたたまれた紙切れを開いた私は、目を丸くする。
「料理教室の予定表です。ざっとこんな感じで」
「ざっとこんな感じで?」
……いや、なに言ってんの?
「ケーキ作り以外の日程は、クリスマスパーティー用にピザとチキンがメニューになります。……あ、来てくれる講師の方も募集をかけてすでに決まりました。その方が今度の土曜日に一度お店へいらっしゃるので、白石さん、対応お願いします」
「なんで私なんですか?」
「え?担当ですよね?」
この男ーーーーーっ!!
腹の中から怒りたい気分になったものの、言えなくて睨みつける。彼はシッシッとどこかへそれを追い払うように手ではねのけ、すごく胡散臭い笑顔を浮かべた。
「激務なのはクリスマスが終わるまでですよ、大丈夫」
「…………私一人じゃ不安です」
「俺がいるじゃないですか」
サラッと言われた一言でときめいてしまった私も私だ。
周りの社員さんたちにもこの会話は聞こえているはずなんだけど、いちいち揚げ足をとられないのは亘理さんのキャラクターにもあるのだろう。
大熊さんあたりがいたら、真っ先にからかってきそうなものを。
なんとなく顔が赤くなっているんじゃないかと気になってしまって、半分手で隠しながら「分かりましたよっ」とむくれた振りをして予定表をエプロンのポケットにねじ込んだ。
頼りにされてるのは分かるけど、公私混同してしまいそうでちょっと怖い。しかも、それは私だけっていう。
あぁ、困ったな。
ため息をつかないように、息を飲んだ。