朝はココアを、夜にはミルクティーを


「もし良かったら、どこかに出かけませんか?」

ソファーから身体を起こして、私の顔をうかがうように彼が誘いをかけてきた。
ぶわっと熱くなりそうな胸が、少し痛い。それを拒否するみたいにマグカップを握る手に力を込める。

「どこかって……どこですか?」

「具体的には考えてませんけど、せっかく一緒の休みですし」

「………………部屋探しは?」


シーン、と私たちの間に沈黙が訪れる。

亘理さんは「それもそうですね」と困ったように苦笑いした。

「すみません、部屋探ししてきます」

彼はミルクティーを飲み干すと立ち上がり、キッチンへ移動してマグカップを洗い始める。
その後ろ姿に、なんて声をかけたらいいのか言葉が出なかった。


お互いに寝る支度を整えたあとは、いつもみたいにリビングと寝室を仕切る引き戸をピッタリしめる。

「おやすみなさい」

扉の向こうから、穏やかな声が聞こえてきて私も「おやすみなさい」と返す。
これも、いつものことだ。

電気を消してベッドにゴロンと横になり布団をかぶったけれど、どうにも心がざわざわして嫌な気持ちになった。
寝返りをうっても目を閉じても、頭に思い浮かぶのは、
─────後悔。
どうして部屋探しのことなんて口にしたんだろうって、そういう後悔。


やだな、私。
性懲りもなく、また誰かを想いそうになるなんて。
あれだけ痛い目を見たっていうのに。


目をギュッと閉じて、布団もギュッと握って、暗闇の向こうにいる彼に話しかけた。

「亘理さん」

「……はい、どうしましたか?」

少しだけ遅れて、返事が聞こえた。
まだ寝てなかったことにホッとして、そしてちょっと胸が詰まった。

「あの…………、映画観たいです。とびきりくだらなくて笑えるやつ」

「─────映画?」

「次の休み、です」


顔が見えない分、どんな反応をされるのか怖い。
寝返りをしたのか、布団をかけ直したのか、向こうには亘理さんの気配を感じる。

「……じゃあ映画を観たら、部屋探しに行きます」

控えめに、そう答えるのが聞こえてさらに胸が苦しくなった。


結局、余計眠れなくなってしまった。






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