朝はココアを、夜にはミルクティーを
気の利いた言葉も思い浮かばず、その場しのぎで「どこかでお茶でもしませんか?」と提案した。
映画館内はあまり暖房が効いておらず、オレンジジュースを頼んだはいいものの冷えてしまったのだ。
コーラを残していた亘理さんもきっと同じだろうと思った。
案の定、彼はすぐにうなずいてくれた。
「そうですね、温かい飲み物でも飲みますか。そこのカフェとかどうですか?」
「はい、そうしましょう!」
甘くて苦いホットのカフェモカあたりを頼もうかな、と嬉々として歩き出したのは私だけ。
亘理さんがついてこないので、どうしたんだろうと振り返る。
彼はなぜかまったく違う方向を向いているので、シャツの裾を引っ張った。
「亘理さん?あっちですよ」
「…………あぁ、はい……」
こちらを見ないままあやふやに答える亘理さんが不自然だったので、どうかしましたか?と彼の視線をたどる。
その先には、一人の髪の短い女性が立っていた。
おそらく私よりは年上であろう彼女は、とても驚いたような顔をしてこちらを見ている。
すごく、綺麗な顔をした人だった。
色も白くて、華奢で、女性らしい人。
ショートの髪がふわふわしていて、触り心地がよさそうだ。
「靖人……」
と、聞き慣れない名前を口にした彼女は、気まずそうに唇をキュッと結んだ。
その名前が亘理さんの下の名前だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
こんな私でも察した。
─────この人は亘理さんの恋人だった人だ、と。
亘理さんは感情の読めない、なんとも言えない表情で彼女をじっと見ていた。
ただただ、動揺した彼女が何かを言い出すのを待っているみたいに。
何を考えているの、亘理さん?
私の胸は、またざわざわした。