朝はココアを、夜にはミルクティーを
8 臆病なこころ
帰宅した私は、ショートブーツを玄関で脱ぎ捨てた。
薄暗くなってきた部屋に入り、電気もつけずにソファーに寝転がる。
ひんやりした空気は外とは違って刺すような寒さはないけれど、どこか物悲しくひっそりとしていた。
羽織っていたブルゾンも脱がずに、そのまま長いこと寝転がっていた。
ふとベランダを見ると、朝に亘理さんと二人で干した洗濯物がはためいている。
─────あぁ、取り込まなくちゃ。
のろのろと起き上がって、ベランダに出ると洗濯物を無造作に家に放り込む。
自分の洗濯物はポイポイッと投げ入れたけれど、亘理さんのものはなるべく丁寧にハンガーラックから外して家の中へ入れた。
一人分も二人分もそんなに変わらないし、と彼の分の洗濯物も畳む。
今まであまり気にしていなかったけれど、こうやって畳んでいると彼の身につけるものひとつひとつがなんだか大切なものみたいに思えた。
─────亘理さんは、郁さんと二人で行ってしまったのだ。
あの時、ブラマで偶然居合わせた私たちは、しばらく沈黙に包まれていた。
亘理さんも彼女もどちらも話し出さず、いたたまれなくなって私が一番先に口を開いてしまった。
「……あの、亘理さん。お友達ですか?」
自分でも白々しいなと思うような切り出し方だった。
「あ、はい」と彼はうなずき、ちらりと彼女に目を向ける。彼女は少し慌てたようにぺこりと私に頭を下げた。
「こんにちは、齋藤郁と申します」
「初めまして。白石瑠璃です」
あちらが名乗ったので、私も名乗る。
郁さんは、少し考えるように視線をさ迷わせたあとこちらへ歩み寄ってきた。亘理さんをしっかりと見据えていて、彼もまた彼女に向き合うように視線をそらさない。
二人が何を話すのか、私には想像もできなかった。