朝はココアを、夜にはミルクティーを
9 ささやかな願いごと
「────では、こちらに用意したピザ生地に、好きなように具を乗せていってください。お子さんがうまくできない時だけ、ママさんたちがお手伝いしてあげてくださいね」
薄く伸ばした生地は鉄板に乗せられ、鉄板ごと各テーブルに配っていく。
料理講師の和田先生は四十代の身綺麗な女性で、こうした親子向けの料理教室をいくつもかけ持ちしてやっている方なので、説明や時間の使い方がとても上手だった。
よく通る声で説明をしたあとは、何組かひとグループでピザの作成にとりかかる参加者のテーブルを見て回り、優しく声がけしている。
「ねぇ、お姉ちゃん。ウィンナーもうないよー」
ぼんやりと和田先生を眺めていたら、私の近くのテーブルにいた五歳くらいの男の子が空になったお皿を指さして話しかけてきた。
「あ、ほんとだね。もっと持ってくるね」
「あーもう、そんなにウィンナーばっか乗せてどうするの!ダメよー!」
生地の上がウィンナーだらけになっていることに気づいた男の子のママが慌てふためいていたので、大丈夫ですよと笑いかける。
「ふふ、子どもってウィンナー大好きですからね。予備のものありますから、取ってきますよ」
「えぇ、でも……。いいんですか?」
「はい、もちろんです」
早足で会議室を出て、店舗裏へ料理教室用に準備していた食材を取りに向かう。
簡易的に作り上げた料理教室なので、ポータブルのコンロを使い、オーブンレンジは本社から三つ借りてきた。
それでも、ちゃんと教室として成り立っているのだから和田先生はすごい。
業務用の冷蔵庫からウィンナーの袋を取り出したところで、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。