朝はココアを、夜にはミルクティーを

「どうですか、皆さん楽しんでます？」

「あ、亘理さん。今のところ問題なく進んでます」

冷蔵庫の扉を閉じてうなずいてみせると、亘理さんはホッとしたように微笑んだ。

「良かったです。三回目にして白石さんも慣れたみたいですね。今日は指は切ってませんか？」

「き、切ってませんよ……」

一週間以上前のことを持ち出すなよ、と心底恥ずかしい思いをなんとか閉じ込める。


料理教室の初回、たくさんの親子の目に慣れなくて、私はみんなの目の前で包丁で指を切ってしまうという失態を犯したのだ。

だって、だって、明らかに料理経験が上回るママたちの視線に加えて、無邪気な子どもたちの視線の強さと言ったら……。
「なんか手つきが危なっかしいわねー」って思われてそうで、やりづらかった。つまらない言い訳になるが。


「そんなイヤミ言うためにわざわざ声かけてきたんですかっ。もう行きます！」

「違いますよ。一応、店長としてイベントの進捗状況を気にして……」

「顔がニヤついてるんですもん。どうせ下手くそですよ！」


半泣きでウィンナーの袋を振り回していたら、「あらまあ！」と今度は大熊さんの明るい声が割って入る。

「こんなところでイチャつくのやめてよぉ〜外は冬なのにねぇ」

「大熊さん！！そんなんじゃ……」

「ねぇ亘理さん、瑠璃ちゃんのお手製のココアは美味しかった？」

否定しかけたところへ、大熊さんのお得意の「かぶせ芸」が炸裂。
動揺しているのは私だけで、彼の方は平然とした様子で真剣に「はい、美味しかったです」と答えている。

……もうダメだ！

悟って、ここへ来た時と同じように早足で会議室へと戻った。後ろからは大熊さんの高らかな笑い声がついてまわったけれど。