朝はココアを、夜にはミルクティーを
「なんか……仲間の一人って思われてそうです」
「それは……まあ、否定はできないけど」
事務作業に関しては、パソコン操作に不安のある年配の社員さんではなく、なにかと私に頼る亘理さん。
思い当たる節があるらしく、大熊さんもあまり強くは言ってこない。
「それにね、同じ職場なんですよ?告白して玉砕した場合、その先は地獄じゃないですか」
地獄なんて大げさな!と大熊さんは笑っていたけれど、私にとっては大きな問題である。
─────そして、他人から見たらしょうもないと思われてしまいそうだが、私にはもうひとつ一歩踏み出せない理由がある。
それは、前の恋愛のことだ。
本気で恋をしていた二年間、結婚も考えて一人でお花畑にいた二年間、バカにされているとも知らずに過ごしていた二年間。
結局私は、彼の浮気相手として遊ばれていたのだから笑えてしまう。
同じ職場ゆえに居場所がなくなり、退職せざるを得ない状況にまで追い込まれ、深く傷ついた。
「まだ三年前のこと引きずってるの?」と呆れられるかもしれないが、私にとってはトラウマレベルの出来事だった。
亘理さんが浮気をするような人ではないと分かってはいるけれど、今の私が恋愛に一歩踏み出すのは、すごく勇気のいることなのだ。
「最初に来た時は、冴えない人が来ちゃったなんて思ってたけど。いま考えると亘理さんは、確かにハイスペックな人だったわね。……イケメンではないけど」
当初、ハイスペックな若いイケメン店長が来る!と大騒ぎしていた大熊さんは、彼のことを見てあからさまにガッカリしていたけれど、ここに来てようやく撤回してくれた。
イケメンではない、というところが私には引っかかったが。
きちんと身なりも整えているし、清潔感もあるし、なにより無駄にかっこつけない。そんな亘理さんは素敵な人だと私は思っている。
「うまくいったら、必ず教えてよね!約束よ、瑠璃ちゃん」
「はい……。ありがとうございます」
気持ちを認めるのは恥ずかしいけど、お母さんと年代の近い大熊さんには素直に話せてしまうから不思議だ。
いつも励ましてくれる彼女に、私は微笑んだ。