この夢がさめても、君のことが好きで、好きで。
突然の言葉に固まる私を前に眉根を寄せ、真意をさぐるようにサキは私の顔を覗きこむ。
思わず返事をすることができずにいると、サキは私が次の言葉を待っていると思ったのか、今度は静かに口を開いた。
「せっかくピアノ弾けるなら、演奏会やった方が楽しくない?」
……サキに、悪気なんてない。
サキはもともとクラシックを聴くのが好きで、小学生の終わり頃から趣味でピアノを習い始めたらしい。
高校一年生の頃、それを教えてくれた彼女に、自分も小さい頃からピアノを習っていたことを話したのはほかでもない、私だ。
その時はただ、高校に入学してできたばかりの友達との間に、 “ クラシックを聴くのが好き ” という共通点を見つけてうれしくて……。
だけど……私は。
私にはもう、サキのように人前でピアノを弾くことはできない。
昔のようには、ピアノを弾くことはできないから。