梟に捧げる愛


 翌日、チヴェッタはエキドナと共に国王に拝謁していた。
 と言っても、仰々しいものではない。国王の執務室で、顔を合わせているだけ。国王の隣には、宰相もいた。

「雇用期間を延長することは、願っても無い申し出だ。こちらとしては、断る理由はない」

 国王は笑顔で、エキドナの申し出を快諾してくれた。
 チヴェッタは安堵した。ひとまず、衣食住は保証されたわけだ。

「いっそ、我が国に定住してはどうだ? あの屋敷を、余はそなたらふたりに与えても構わないと思っている」

「そ、それは、その、あの……」

 国王の問いに、エキドナはどうにか返答しようと必死だ。

「ありがたいお話ですが、今はお答えできません」

 見かねたチヴェッタが、代わりに返答する。
 エキドナの気持ちはわからないけれど、チヴェッタ自身は、この国に定住しようと思ったことはない。いい国だとは思う。今まで訪れたどの国よりも平和で、貧富の差が少なくて、王は民を愛し、民は王を敬っている。

「時間はまだある。よく考えよ」

「はい、陛下」

 チヴェッタは礼儀正しく一礼すると、エキドナと共に執務室を出る。
 ようやく息苦しさから解放されて、エキドナが安堵の息をつく。

「師匠。私は城下に買い物に行ってきます」

「私も行くわ」

「ひとりで行ってきます。師匠は屋敷で、仕事しててください」

 正直、エキドナを連れて城下へ行くのは危険だ。
 またダメな男に引っ掛かりでもしたら、前借りした給料を失ってしまうかもしれない。師匠のことは尊敬しているが、信用はしていないのだ。

「いいですね。真っ直ぐ、屋敷へ帰ってください」

「わ、わかったわ」

 
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