梟に捧げる愛
4
翌日、チヴェッタはエキドナと共に国王に拝謁していた。
と言っても、仰々しいものではない。国王の執務室で、顔を合わせているだけ。国王の隣には、宰相もいた。
「雇用期間を延長することは、願っても無い申し出だ。こちらとしては、断る理由はない」
国王は笑顔で、エキドナの申し出を快諾してくれた。
チヴェッタは安堵した。ひとまず、衣食住は保証されたわけだ。
「いっそ、我が国に定住してはどうだ? あの屋敷を、余はそなたらふたりに与えても構わないと思っている」
「そ、それは、その、あの……」
国王の問いに、エキドナはどうにか返答しようと必死だ。
「ありがたいお話ですが、今はお答えできません」
見かねたチヴェッタが、代わりに返答する。
エキドナの気持ちはわからないけれど、チヴェッタ自身は、この国に定住しようと思ったことはない。いい国だとは思う。今まで訪れたどの国よりも平和で、貧富の差が少なくて、王は民を愛し、民は王を敬っている。
「時間はまだある。よく考えよ」
「はい、陛下」
チヴェッタは礼儀正しく一礼すると、エキドナと共に執務室を出る。
ようやく息苦しさから解放されて、エキドナが安堵の息をつく。
「師匠。私は城下に買い物に行ってきます」
「私も行くわ」
「ひとりで行ってきます。師匠は屋敷で、仕事しててください」
正直、エキドナを連れて城下へ行くのは危険だ。
またダメな男に引っ掛かりでもしたら、前借りした給料を失ってしまうかもしれない。師匠のことは尊敬しているが、信用はしていないのだ。
「いいですね。真っ直ぐ、屋敷へ帰ってください」
「わ、わかったわ」